クラウド グーグルの次世代戦略で読み解く2015年のIT産業地図

クラウドコンピューティングの全体像をわかりやすく解説した書。
著者は米国のインターネット、通信業界を専門とするジャーナリストである小池良次氏。

Googleの次世代戦略を素材にクラウドの全体像を説明したのち、クラウド時代に日本のIT企業が米国企業と対等に渡り合うための戦略を提示している。

クラウドビジネスは「次世代データセンター(仮想化技術)」の話であると誤解されることが多い。著者はクラウドビジネスを「クラウドサービスプロバイダー(アプリケーション)」「クラウドインフラプロバイダー(通信、データセンター)」の両者が一体となって初めて可能になるものだと説明する。

クラウドサービスプロバイダーの代表として、Adobe、SAP、Oracle
クラウドインフラプロバイダーの代表として、IBM、HP。 そして、それらを垂直統合する企業の代表として、GoogleMicrosoftをあげている。
OracleはSunを買収したことによって、クラウド時代の垂直統合プレイヤーを目指していると私は考えている。

垂直統合プロバイダーであるGoogleの今後の戦略の基軸になるものとして、Android(携帯機器向けOS。オープンソース)をあげている。GoogleAndroidを活用して、オープンソースによる利用者拡大のメリットとJava仮想マシン(Dalvik)によるユーザ囲い込み戦略を両立させている。Dalvik上で作られたアプリケーションはAndroidのみでしか動作することはできないのだ。

こうした企業と対等に渡り合うために、日本のIT企業はどうしていくべきか?回答の一つとして、著者は「ホワイトボックス」と呼ばれるモデルをあげている。
現在の携帯端末は、多機能化競争の結果、ソフト/ハードが複雑化して端末価格も高くなり、その上、使わない機能ばかりが増えている。それに対して、最初は貧相な機能しかついていないが、アプリケーションをダウンロードすることによって、携帯端末が電話になり、音楽デバイスとなり、手帳代わりとなる。最初は何も入っていないから「ホワイトボックス」というわけだ。
GoogleのOSとインテルのチップに小型軽量な日本の高度部品を組み合わせることによって、日本IT企業は活路を見いだせるのではないかと語る(これはTV分野でも同様)。

私が感銘を受けたのは、Java仮想マシンであるDalvikである。Androidによるオープンソース戦略についてはわかっていたつもりであったが、裏で(?)きちんと顧客の囲い込み戦略を実現させているのは見事としか言いようがない。一方のiPhoneObjective-CというC言語Smalltalkという変則的な言語でしかアプリを作れない。Mac使いな人には良い言語なのかもしれないが・・・。正直、アプリをJavaで作ることができるのであれば、アプリ開発者は今のiPhoneアプリ開発者の総数よりもっとたくさん増加するだろう。つまり、Android用アプリは開発者にも受け入れられやすく、かつ、OSとなるAndroidオープンソースなので有志の手でバグ改良/機能拡張されやすいのである。
たとえば、iPhoneのようにメールの自動受信が15分おきなんていう情けない仕様も、(ユーザの志が有れば)Androidならばすぐに直せたりするわけだ。

Googleの企業活動でIT業界が変わっていくことに対して、私は大きな期待を寄せている。しかし、その中で日本企業がどうしていけばよいのかは小池良次氏の著作を読んでも、私には正直言ってわからない。

単なる部品産業だけで日本のIT企業は食って行けということであろうか??

本書は良書と言える部類に入る。
だが、欲を出しているようだが、著者の見識を生かして、アプリケーション側からの観点による日本IT企業に向けた提言をいただけるとうれしい。