- 作者:日経コミュニケーション 編
- 発売日: 2009/03/05
- メディア: 単行本
NTTの内情を描き、今後の展望の予測と期待/批判を記述した書。
通信・ネットワーク関連の雑誌である 日経コミュニケーション の記者による執筆である。
営業利益が日本一である通信事業者 NTT の各グループ(持ち株、東西、コム、データ、ドコモなど)の内部事情の推測、NTTと総務省との関係、NTTの国際戦略を説明し、最後にNTTのあるべき姿を提示する。
以下、気になった部分の読書メモです。
・NGNの定義
「NGNは加入電話網を代替する設備ではない」
「商用のNGN網は、すでに保有しているIP網の設備更改」
公社時代に作られた加入電話網は "ボトルネック設備" と呼ばれ、規制の対象になっている。NGNと光ファイバ網は民営化後に作られたものであるため、NTT側としては規制対象外としたいのだろう。そのため、地域IP網(フレッツ網)の後継と位置づけることにしたという。
私は加入電話の後継がNGNであると思っていたため(現にBTの21CNは加入電話網のコア部分を置き換える)、この記述には非常に驚いた。確かに、NGNのユーザ向けサービス名称は 「フレッツ光 ネクスト」 であり、フレッツ光の後継であることを主張しています。単なるフレッツ網の後継であるならば、NGNのオープン化(※)とかいう活動は全くの見当外れに他なりません。
※ IPv6マルチプレフィックス問題に代表されるようなインターネット接続という意味ではない。
・総務省の国際戦略
「日本は今後、どの分野で何を武器に世界と戦っていくのか」
「今後、ICT産業で大きな成長を見込める分野はモバイル市場」
省庁の観点からすると、日本の経済成長と国際競争力の強化という立場からNTTの組織問題を考える必要がある。やみくもにNTTを解体して、成長の余地がない国内の固定通信市場でパイの奪い合いをして疲弊させるよりも、現段階で資本規模としても世界最強の通信事業者である立場を生かして、日本の国際競争力の強化に努めた方がいい。また、NTTを弱体させることによって官製不況が起きる可能性があるという現在の経済状況も、反解体への追い風だ。
だが、NTTにとって逆風となる議論もある。それが、固定通信の 「オープンアクセス」 である。オープンアクセスとは特定の通信事業者がインフラだけを構築し、それを他の通信事業者に公平な条件で貸し出す形態のこと。これもBTの導入事例が有名で、オープンリーチという名称で分離している。これが日本国内で実現されれば、NTT東西の設備部門(英国でいうオープンリーチ)が、NTT東西の利用部門とKDDIやソフトバンクに対して公平な条件で設備を貸し出すというかたちになる。米国でも、オープンアクセスの条件付きで国費を投入する法案も出ており、こうした形態は全世界的なものになりつつある。
・NTTの国際戦略
「日本のユーザの国際展開にNTTがついて行くことを基本としている。」
「必ずしも海外の進出先で一般ユーザにNTTグループのサービスを浸透させたいという考え方ではない」
海外展開は現地で大きな収益をあげるためではなく、国内市場での競争を優位に展開するための手段であるということ。
一昔前、私もニュースでiモードを海外事業者に納入しようという動きを見たことがあったが、現在ではそうしたことは2の次になっているようだ。投資対効果という点ではNTTの戦略にも一理あるように私には思えるが、日本の国際競争力向上という観点では全く寄与していない。日本のユーザが国際的なビジネスを行うときにNTTが通信面でサポートできる、であるから国際競争力の強化に繋がるというNTTサイドの理屈なのだろうと私は推測するが・・・総務省の目指すところとの隔たりが大きすぎやしないだろうか?
・モバイルプラットフォーム
通信プラットフォーム研究会(2008年2月~2009年1月)が公表した報告書では以下の6つの施策を打ち出した。
認証・課金機能の連携によるポータルや決済手段の多様化
携帯電話事業者ごとに異なる端末APIの互換性向上
複数の事業者をまたがって共通のIDで認証できる仕組みの実現
メールやコンテンツのポータビリティの実現
コンテンツの配信効果を計測する手法の確立
ライフログ活用時の個人情報の取り扱いに関する基本ルールの検討
この6つの中でも特に注目すべきは3,5,6である。
6のライフログは昨今のウェブニュースでもよく見られる言葉である。いわゆるユーザの行動履歴を示すのであるが、ライフログを収集すること自体が目的ではない。ライフログを基にしたターゲット広告を実現したいのだ。
3の共通IDはこのライフログを横断的に収集するためのもの。私もOpenIDを使ってYahooやJOGNOTE、iKnowを使っている。ユーザの利便性という意味でも大いに存在意義があるのだが、一つのウェブサイトに関わる情報ではなく複数のサービスの利用状況を一元的に管理できるというところが、サービス提供者側の利点である。
最後の5であるが、コンテンツの配信効果の計測というのは、つまりネット視聴率である。ネット視聴率を正確に測定できれば、広告やマーケティングの精度を飛躍的に高めることができる。
ライフログ、ネット視聴率、共通IDを組み合わせたプラットフォームを実現できれば、日本の企業が世界で戦うための強力な武器になる、と著者は語る。私が知っているところだと、共通IDとネット視聴率に関しては米国企業のほうが先に進んでおり、日本企業が太刀打ちできるところではないだろう。バナー広告やOpenIDなどの仕組みは米国発と言っていいものだ。日本の通信プラットフォームの先進性は、おサイフケータイにあるように思う。ガラパゴス携帯といわれて久しいがEdy、Suicaなどに代表される電子マネーやiD、DCMXなどのクレジットカード連携機能は世界に先駆けた機能である。ライフログ収集のための法律整備は重要な項目であるが、あまり一般化するとタイミングが遅れてしまう。そうしたことなく、おサイフケータイの購入履歴情報の取り扱いなどと項目を絞ることによって、早期のサービス実現を目指していければ良いと考える。